皆さんこんにちは。
美容師兼マルチデザイナーの空(くう)と申します。
先日の記事で設備はローコスト、提供するヘアデザインはハイセンス
そう言うコンセプトをお話ししました。
今日はローコストについての話です。
美容室の設備機材といえば、タカラベルモントなどが有名ですが、最近のタカラから送られてくるメルマガを見ていますと、驚くような豪華な設備の美容室居抜き物件がたくさん出ています。

その中でも群を抜いて高額な家賃の居抜きがあったのでご紹介します。
渋谷区神宮前ですから原宿とか表参道あたりでしょうか。
家賃をみて下さい。
132万円です!
敷金は何と!12ヶ月ですから、1584万円かかります。
造作譲渡とありますので、美容設備は無料のようです。
新規で開設した場合は・・・3000〜5000万円?
都心の物件が多いようですが、大きな美容室の居抜き店舗です。
居抜きというものを知らない方のために、一応私の経験をもとに話しておきますね。
今からちょうど30年前ですが、東京やパリ市内での修行を10年間ほどして来た私は故郷の九州の宮崎県に帰って美容室を開業することにしました。
帰郷して開業するとなると、まず最初に不動産に行きますよね?
何となくこの辺りは住宅も多いし、交通量も程よく多いのでこの不動産かな?
と、直感で飛び込んだ不動産屋がありました。
最初にたまたま行った不動産にいきなり「美容室の居抜き店舗がありますよ!」と言われました。
居抜きって何?
居抜きという言葉を生まれて初めて聞いた私は、それが何なのか?全く想像もつきませんでした。
というのも私は美容師になって修行の10年間に、ただの一度も開業したいなどと考えたことがなく、たまたま「そうだ!開業しよう!」とまるで思いつきで京都に旅行にでも行くような軽い気持ちで開業を決意したので、美容業界の経営に関する情報や知識が完璧なまでにゼロでした。
当時28歳でしたが、不動産曰く、「潰れた美容室の機材など込み込みで100万円と格安で売っていますよ」
そう言われて、そもそも新規開業するのにいくらくらいかかるのか?検討もつきませんでしたので、100万円の設備が高いか?安いか?
わかりませんでした。
言われるままに、帰郷して最初に行った不動産で最初に見た美容室の居抜き物件は、第一印象は意外にも良かったんです。
木目調の受付カウンターがあり、お客様専用のクローゼットがあり、シャンプー台が2台、セット面が3台、スタッフルームが1部屋、10坪で家賃6万円。
環境は大きな住宅街で市街地まで車で10分程度のとても便利な場所でした。
車通りも程よく多く、歩いている人はいないけれど駐車場が3台込みの値段です。
あまり交通量が多すぎる大通りはお客様の出入りに支障をきたす可能性があったので、メインの道路から一本奥に入ったくらいの場所が良いと思っていましたし、郊外型なので駐車場の立地や出入りのしやすさも良い感じでした。
第一印象も良かったので、不動産屋に良い感じの反応をしました。
次に出てくる不動産屋の言葉に私は少し戸惑いました。
不動産屋:「実はこの物件は後2週間で撤去しなければならないんですよ・・・」
私:「え?ということは2週間以内に決めなければならないってこと?」
「2週間して買い手がいなければ、この内装設備はゴミになるってことか・・・」
不動産:「そうなんです、居抜きを募集し出してから数ヶ月経過していて、残り2週間が限界だと大家さんが言っているんです」
私:「ああ、そうですか・・・」
帰郷して初日に見つけた物件ですが、これから2〜3ヶ月かけてゆっくり物件を探そうと思っていた矢先でした。
確かに大家の立場で考えたら1日も早く店舗を誰かに貸したいはずです。
潰れた美容室ということはもしかして家賃は支払っていないのか?
もしくは家賃を払っていてもお金がなくて前オーナーは苦しんでいるだろうな・・
いろいろなことが頭に浮かんできました。
私は「わかりました、2週間以内に結論を出します」
と言ってその場を去りました。
居抜き物件かぁ・・・
先ほども話しましたように、私は美容師になってからずっと目の前の作業というか目の前の技術に没頭しており、自分が如何に上手にカットするか?
如何に上手にヘアメイクするか?
如何に綺麗な作品を残すか?
※ここで言う作品とは、私が東京やパリで働いていた時は、ファッション紙のヘアメイクとしても仕事をしていましたので、作品撮りと言って、駆け出しのモデル(国内や国外)駆け出しのスタイリスト、カメ足といってカメラマンのアシスタントと言った駆け出しばかりで、モデルをヘアメイクして洋服を着せて撮影することを休みの日などに行っていました。
要するにメアメイクの自主練習という感じでしょうか。
好きな職業だったので、趣味のような楽しい気持ちで作品撮りをしていました。

そう言う意味の作品です。
なぜ作品撮りをするかというと、作品をファイルに綴って作品集を持って、集英社だとかマガジンハウスだとか、ヘアメイクで使って下さいと営業にいくわけです。
他にも次の美容室の面談の時に使うなど、美容師の名刺がわりになるわけです。
私がパリの美容室に面接に行った時にもこの作品集を面接に持ってこいと言われましたので、持っていきました。

話を戻しますが、そうした目の前の技術だけを追いかけてきたので、上手な先輩のヘアメイクや、先生と呼ばれているカットの講師や、店のオーナーに技術をおしえてもらい、それを何度も繰り返して習得することだけ考えてきましたので、経営や設備投資など幼稚園生レベルの完璧に無知な私でした。
しかし直感はまぁまぁ良い方だと思うので、今回の居抜き物件の印象が良かったこと。
そして何よりもいきなり開業を思いついた私は文字通り文無し、貯金は0だったので、多額な新規での美容室開業はまず無理があったこと。
2週間が近づいてきたときに、わざと2週間近くまで時間を引き伸ばしたのは、居抜き物件の前オーナーへの心理戦でもありました。
考えてみて下さい。
私が潰れた美容室のオーナーで、居抜きで設備を売りたいけど、数ヶ月売れずにいたとします。
そして不動産に聞いたところ、私が買わなければ、前オーナーは設備の撤去代金として100万円近く支払うことになること。
この時に初めて知ったのが、不動産契約書の中に折り込まれている、「現状復帰」と言う言葉です。
つまり美容室を作る前にはほとんどの場合、事務所のようにガランとした何もない店舗だったはずです。
大家としてはどう言う業種でも改装できるように、シンプルな内装で当初貸し出したものを、美容室側が建具や照明や美容機材のシャンプーブース2台とセット面3台は埋め込み型で壁に取り付けた状態ですから、当然ですが現状に戻すとなると撤去費用が100万円と言われてもわかる気がしました。
心理戦というのは、相手が不利であればあるほど、有利に働きます。
要するに2週間が過ぎた今となっては、私が買わなければ、居抜きで売り出している100万円も入って来ないし、現場復帰で設備を撤去する費用の100万円も出ていきます。
前オーナーは数日後に200万円も損をするわけです。

そこで私は言いました。
「30万円なら買います」
オーナーは設備も撤去せずに済んで、現金で30万円も入ってくるのですから丸儲けでしょ?
私が買えば撤去費用と設備譲渡で130万円儲かるわけです。
本当はタダでも良いんだけど・・・
と内心思ったんですが、前オーナーは美容師をやめて、どこか遠いところの工場で働くと言っていましたので、餞別としての30万円でした。
私の気持ちとしては「次の人生で頑張って下さい!美容師だけが人生ではありませんよ!」
そういう気持ちで30万円なら支払うと言ったのです。
こうして私はすぐに開業できる美容設備を30万円で買い取りました。
新規で美容機材と内装を手掛けたら、300〜500万円くらいかかったと思います。
敷金や礼金などで36万ほどかかり、70万円で居抜き物件で美容室を開業しました。
お金は親戚のおばちゃんに頼んで100万円出してもらいました。
こうして無借金で美容室の開業ができたのは居抜き物件のおかげです。
後はセット椅子をどうするかです・・・
私は美容師の国家試験を生まれ故郷の宮崎で取得しました。
当時は美容学校へ1年通って、1年間は就職先の美容室でインターンとして働き、国家試験に挑むというシステムでした。
宮崎市内の美容室でしたが、私が10年間故郷から離れている間に、インターンで務めていた美容室は廃業しており、師匠は不動産業を営んでると噂で聞きました。
知り合いのツテを使って師匠を探し出しました。
そして私は師匠に開業の知らせを告げに直接会いに行きました。
すると師匠はこう言ったのです。
「あなたがインターンで働いていた時のセット椅子がそのまま倉庫に眠っているよ」と・・・
なんという偶然でしょうか?
いや必然だったのかも!?
美容師として初めて就職したお店で使用していたセット椅子を、10年の時を経てタダで3席も頂くことになったのです。
美容室の椅子も同時は高額で20万円〜30万円くらいでしたので、ここでも3席×20万円で60万円得しました。
こうして居抜き美容室の設備に30万円支払い、消耗品以外の高額になりそうな美容設備は全てタダで揃ってしまいました。
私のようにプライドもお金も無い人間だからこそ、全ての美容機材を中古で済ませることができましたが、皆さんならどうしましたか?
私にあるプライドは、技術に関するものだけでした。
その後美容材料とか美容業界紙を読んでいく中で知ったのですが、平均的に1000万円くらいでサロンを開業する人が多いことに驚きました。
というか、美容業界紙は美容機材のメーカーや美容材料のメーカーなどが作り上げており、如何に豪華な美容室でお客様をおもてなしするか?そういうカルチャーが出来上がっており、3000万円や5000万円は当たり前の世界であるかのように仕上がっていました。
小さな一人サロンで仮に500万円で開業しても運転資金や広告宣伝費用などを考えると700万円は必要です。
もっと言えば500万円で作って500万円の運転資金があった方が良いくらい、美容室の立ち上げは難しいです。
新規客の動員が難しいという意味です。
いわゆる過当競争が日本全国で起きているからです。
他の事業でも同じらしいのですが、一般的に開業資金プラス1年分の生活費をまかなえる程度の運転資金が準備金として必要です。
できれば無借金で開業できる方が有利なのは言うまでもないありませんが、現実には借金で開業する人がほとんどです。
借金の支払額は売り上げの20%以内と言われていますが、売り上げは変動するので、現実には今の売り上げの支払額20%は、来年の売り上げからの支払額40%になることだってあります。
売り上げが減れば、今年は20%で済んだけれど、来年は売り上げに対して倍になる可能性もあるのです。
そういうことで今日は美容室の開業に当たっての、開業設備に関して見栄やプライドを捨てて、中古で他人の店舗の軒下から始めると開業の資金繰り負担が減ると言う話をしてみました。
設備も居抜きで十分だし、家賃やリッチなどよくよく考えて、少しでも納得がいかなければ出店しない方がましです。
逆にお客様に提供する技術やサービスこそ、情熱やプライドを持ってこだわる必要があるかと思います。
今回のテーマ、開業資金のローコスト化についてはしばらくネタに困らなそうなので引き続き書いて行こうと思います。
どんな商売でも同じですが、開業資金や設備のいる商売はやり方次第です。
あまり見栄を張り過ぎると苦しい借金地獄が待っているかも知れませんよ!?
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございました。